恵那山とは

恵那山(えなさん)は中央アルプス(木曽山脈)の最南端に位置する山です。標高は2,191mと日本百名山の中では比較的低く、櫛形をしたその山容を、濃尾平野から望むことが出来ます。

全山が中生代白亜紀の濃飛流紋岩からなり、崩れやすい地質であるため、ウバナギ崩壊地や天狗ナギ崩壊地などが見られます。

また、古道・東山道が神坂峠を越えて岐阜県中津川市と長野県阿智村を結んでいましたが、しばしば崩壊したとの記述が「日本記略」や「扶桑記略」などに見られます。

島崎藤村の「夜明け前」、井上靖の「憂愁平野」、杉本苑子の「孤愁の岸」などの小説の中にも登場して名峰として親しまれてきました。

恵那山のアクセス注意点

GWの初めに山開きがあり、登山最適期を迎えます。長野県阿智村と岐阜県中津川市にまたがる為、登山口が東西に分断されていて、アプローチは長野県からの広河原ルート 、岐阜県側からの黒井沢ルート・神坂峠ルート・前宮ルートになっています。

マイカーまたはタクシーを使用してのアプローチが便利です。

広河原ルートに入るには、新宿(諏訪湖)方面からのアクセスでは中央高速の飯田山本ICを使います。広河原登山口に最も近い園原ICは、ハーフICであるため、名古屋方面の出入口(下り 線入口と上り線出口)しかない為です。

岐阜県側からの各登山口へは中津川が拠点となり、マイカーかタクシーでのアプローチになります。

恵那山の地図

恵那山の山小屋

中央アルプスの山小屋
萬岳荘
萬岳荘

恵那山登山コース概要

神坂峠ルート

ウバナギ崩壊地の先に富士見台高原、遠景に中央アルプス
ウバナギ崩壊地の先に富士見台高原、遠景に中央アルプス

唯一、公共交通機関でのアプローチな可能なのが神坂峠ルートです。名古屋と飯田を高速バスが結んでいます。

園原バス停から「富士見台高原ロープウェイヘブンスそのはら」「展望台リフト」「富士見台高原バス」を乗り継ぐと、神坂峠へ公共交通機関のみで行くことが可能です。

萬岳荘で宿泊を考えれば、園原の里で旧東山道の遺構に触れ、神坂神社から東山道を登り、神坂峠からのルートを辿る計画を立てても面白いと思います。

登山口となる神坂峠は、木曽山脈南端の恵那山の北側を超える峠です。神坂峠は、古代から信濃と美濃とを結ぶ東山道の一部を成し、「神の御坂」「信濃坂」(科野坂)と呼ばれ、東山道の中でも大変な難所であったといわれています。古事記や日本書紀に日本武尊が東征の帰路、この峠を越えたとの記述があります。

ともあれ、古くから人々の往来があった峠で、西暦1952年(昭和27年)に神坂峠近くの「手向ヶ丘」から祭祀遺跡が発見されます。この神坂峠祭祀遺跡は古墳時代から中世にかけてのもので、安全を祈願して峠の神に祈った時に捧げた滑石製模造品1,289点が出土し、長野県宝に指定されています。

※ 東山道とは
古代律令による官道のひとつで、近江(滋賀県)を起点に、美濃(岐阜県)の坂本駅を経て、神坂峠を超え、長野県阿智村へ出て、伊那谷を北上し、諏訪から陸奥・出羽国(東北地方)に通じていた古道です。

神坂峠登山口のアクセスのポイント

東京(新宿)からJR中央線で神坂峠登山口まで公共交通機関のみを使って行くことはできません。 JR飯田線・飯田駅と富士見台高原ロープウェイヘブンスそのはら間、JR中央細線・中津川駅と神坂峠間は共にタクシーを使う必要があるからです。

一方、JR名古屋駅からは公共交通機関のみでアクセスが可能です。中央高速バスが名鉄バスセンターと飯田駅間を 1日3往復走ります。園原バス停から「富士見台高原ロープウェイヘブンスそのはら」へは徒歩、又は送迎バスで行き、「展望台リフト」「富士見台高原バス」を乗り継いで神坂峠登山口へ行けます。しかし、万岳荘行き富士見台高原バスのヘブンスそのはら展望台の始発がAM10時なので、日帰りはほぼ不可能です。そのため、万岳荘へ前夜泊するか、恵那山山頂小屋へ宿泊することになります。

マイカーの場合、中津川インターから林道大谷霧ガ原線で神坂峠へ行きます。林道はすべて舗装されています。林道の幅は狭いものの、ほぼ樹林帯の中にあり、谷側に転落するような危険な場所はありません。中津川温泉 クアリゾート湯舟沢から約30分で神坂峠です。
一方、長野県阿智村側から神坂峠越えは、峰越林道の崩壊が激しく、広河原登山口の2km手前で通行止めです。

コースタイム

  • 登山:神坂峠登山口→40分-鳥越峠→1時間22分-天狗ナギ→1時間55分-前宮コース合流点→20分-恵那山避難小屋→4分-恵那山 合計:3時間20分
  • 下山:恵那山→4分-恵那山避難小屋→20分-前宮コース合流点→30分-天狗ナギ→1時間10分-鳥越峠→50分-神坂峠登山口 合計:2時間55分

難易度 1/10

体力  2/10

広河原登山口ルート

笹の中の展望が開けた稜線
笹の中の展望が開けた稜線

2001年10月に開通した広河原登山口からのルートは、往復6時間と恵那山ルートの中でも最もコースタイムが短い為人気ルートです。

しかし、単調な登りが最後まで連続して楽しめる所が少ないのが難点です。途中、展望が開ける所が僅かにありますが、絶景とまでは言い難いのは残念です。

登山口のゲート横には20台ほど停められる駐車場がありますが、一杯の場合に、車道沿いに駐車スペースを見つけるのはいささか困難と思われます。

ゲートを抜け、林道を20分ほど歩くと登山口です。登山口横には水場からは冷たい水がこんこんと流れ出ています。

登山口から本谷川を渡ると登山道が始まります。本谷川を渡ると尾根筋に付けられた急勾配の斜面が待っています。ゴロゴロとした石や木の根に覆い尽くされた足場の悪い登山道は、ジグザグに切られ約1時間30分の急登りが続きます。夏場であれば標高が低いこともあって汗が吹き出します。

標高1,716m地点の小ピークを通過した辺りから傾斜の緩い稜線を進みます。やっと展望が開けると恵那山山頂らしきピークが右手側に見えてきます。 背の高い笹の間を登る辺りが、このコースの最も良い所で、左手には黒井沢登山口からの稜線や右手には神坂峠からの稜線が見て取れます。

針葉樹林帯や笹の間の登りを交互に繰り返へし高度を上げていきます。5月22日時点で、山頂近くではまだ雪の残る樹林帯を登り上げると恵那山山頂(標高2,190m)に到着します。

山頂からの展望が無く、さらに10分ほど進んだ所にある最高点(標高2,191m)から、東側のみの展望が開けています。最高点のある岩場のすぐ下は、広場となっていて避難小屋とトイレがあります。

広河原登山口のアクセスの注意点

ゲートまでの峰越林道は狭い箇所があり慎重な運転が必要です。又、しばしば林道が通行止めになるため事前確認が必要です。

遭難事故

2003年10月13日に、死亡事故が発生しています。その詳細はこうです。登山者夫婦が下山し、あと少しで登山口の駐車場に着けるという段階で、本谷川で足止めされます。その日は朝から雨が降り続き、本谷川は増水していました。

当時まだ仮設橋しかなく、増水のため仮設橋は水没していました。両人は無理して渡ろうとしました。主人は対岸に辿りたのですが、奥さんは流され死亡するという事故が起こっています。山の天気には十分注意したいものです。

コースタイム

  • 登山:峰越林道ゲート駐車場→恵那山 3時間20分
  • 下山:恵那山→峰越林道ゲート駐車場 2時間30分

難易度 1/10

体力  2/10 日帰り

黒井沢ルート

樹林に覆われた恵那山
樹林に覆われた恵那山

岐阜県側からの登山口は神坂峠と黒井沢の二つです。登山口までのアクセスにかかる所要時間はほぼ同じです。

黒井沢登山口からのルートの特徴は、神坂峠コースに見られるアップダウンがほとんど無く、一様に高度が上がっていることです。そのため、急斜面に不得意な登山者でも登りやすいと言えます。

また、途中に2ヶ所の水場と山頂の避難小屋を含め三つの避難小屋があるため安心です。

登山ルート全体を通して樹林帯の中で、標高2000m近くになってようやく展望が効く場所が出てきます。それもほんの僅かで、再び針葉樹林帯中に入ります。

特に滑落するような危険箇所はなく、登山道は良く整備され、歩きやすいので登山初心者向きと言えます。

黒井沢登山口のアクセスのポイント

アクセスは、中央道中津川インターを降り、恵那神社へ向かいます。恵那神社手前のウェストン公園まで中津川駅から北恵那交通バス川上線が通じています。

ウェストン公園の先は恵那山林道になり、道幅が一気に狭まります。約10km林道を走ると黒井沢登山口の広々とした駐車場に着きます。

バスを使った場合、林道を10km歩かなければならないので、やはりタクシーが便利です。

コースタイム

  • 登山:黒井沢登山口駐車場→1時間30分-野熊ノ池避難小屋→1時間10分-水場→15分-恵那山避難小屋 合計:2時間55分
  • 下山:恵那山避難小屋→10分-水場→58分-野熊ノ池避難小屋→1時間2分-黒井沢登山口駐車場 合計:2時間10分

難易度 1/10

体力  2/10

恵那山神坂峠と古代祭祀遺跡ルート

暮白の滝の滝見台
暮白の滝の滝見台

東山道の中でも美濃の国と信濃の国の間にある神坂峠(標高1576m )は最大の難所でした。 峠を挟んで坂本駅家(JR中央本線中津川駅近く)と阿智駅家(中央自動車道阿智パーキングエリア近く)が設置されましたが、その距離は約40kmあり、通常の2.5倍で、標高差は1,000mを超えていました。

恵那山特有の脆弱な地質に急峻な坂道であったため、多くの人がこの場所で命を落としたと言われています。

当時の旅人は旅の安全を祈願するために「石造模造品」を奉納しました。神坂峠の頂上や杉の木平から様々な遺物が発見され、古代祭祀遺跡として注目を集めています。

アクセスのポイント

阿智村東山道・園原ビジターセンターはゝき木館へのアクセスは、公共交通機関はありません。

名古屋方面より:中央自動車道「園原」インターより約5分。 東京・飯田方面より:中央自動車道「飯田山本」インターより約20分です。

コースタイム

  • 登山:園原ビジターセンターはゝき木館→神坂峠 3時間30分
  • 下山:神坂峠→園原ビジターセンターはゝき木館 2時間25分

難易度 1/10

体力  1/10

恵那山の日帰り登山は出来る?

恵那山はどのコースから登ってもも日帰り登山が基本です。 最もコースタイムが短い広河原ルートは、標高差約1,000m、 往復で5時間50分です。 最もコースタイムが長い神坂峠ルートでも6時間20分ほどです。

恵那山の登山口近くの温泉

湯元ホテル阿智川

昼神温泉 湯元ホテル 阿智川

南信州最大級の大露天風呂があります。
湯量は毎分200リットルの源泉が、露天風呂上の洞窟内にあり、170メートル奥から無色透明のナトリウム硫黄泉がとうとうと噴出しています。

広河原登山口まで約13 km、車で21分です。
園原ビジターセンターはゝき木館までは約8km、車で14分です。

昼神温泉 お宿 山翠

昼神温泉 お宿 山翠

岩造りの露天風呂や大浴場は「翠嵐力世の湯」(男湯)と「翠帳逸美の湯」(女湯)の2ヵ所あります。
プライベートを重視する方は露天風呂付き客室があります。
広河原登山口まで約12 km、車で20分です。
園原ビジターセンターはゝき木館までは約7.1km、車で12分です。

湯ったりーな昼神

湯ったりーな昼神

日帰り温泉です。食事処があります。
営業時間:10:00~21:30(最終受付20:30まで)
休館日:毎週火曜日 (火曜が祝日の場合は翌日)
入浴料:大人800円、小人400円(プール+入浴料 大人1,100円、小人550円)

山名の由来

恵那山の山名の由来

古くは「胞衣山・えなさん」(胞山)と呼ばれていました。松平君山の「吉蘇志略」によると、イザナギ・イザナミの神が天照大神を生んだ時に 胞衣(えな)をこの山に埋めたことに由来すると言います。それが恵奈・恵那に転訛したのだといいます。しかし、「えな」からの語源伝承に過ぎず、明治になってからの俗説です。

また、山容に由来する伝承として「濃陽志略」には、濃尾平野や三河湾から望む姿が「形舟が覆へる如し」とあります。船底を上にした形から「覆伏山(おおぶせやま)」「舟伏山」「舟覆山」などの呼び名もあったと言います。

※胞衣-出産後に排出される胎盤(へその緒)のこと。

恵那山の天気の特徴

恵那山の天気
恵那山の天気

夏の恵那山はややガスが入りやすい

中央アルプスの最南端に位置する恵那山の山域は、日本海側特有の冬型気候の影響を受けにくいため積雪量はさほど多くありません。

6月から7月の梅雨明けまでは晴天の確率は低いですが、梅雨開けと共に晴天がしばらく続きます。また、秋も比較的晴天に恵まれます。しかし、11月上旬で初冠雪を見る年もあり、雨天だけではなく、強風などにも天候には十分な注意が必要です。

山の天気予報は難しい
山の天気予報は難しい

お薦めの天気予報

テレビで流れる天気予報やネットで得られる無料の天気予報は、一般的に平地を対象としたものです。 そのため、晴れの天気予報が出ていても、山ではガスってしまうことはよくあることです。 

そこで、おすすめなのがtenki.jpの有料バージョン(+more)です。これは、月間100円と安いですが、高層天気の予報のため精度が高いです。また、山の天気予報(月額300円)を併用すると更に精度が高まります。

ウォルター・ウェストンの登頂

恵那山ウエストン公園

1893年(明治26年)には外国人としては初めてイギリス人宣教師のウォルター・ウェストンが登頂しています。

そして、2001年(平成13)10月 川上地区の恵那神社(恵那権現社)近くに「恵那山ウェストン公園」が中津川市観光協会・恵那山ウエストン公園整備協賛者により整備されました。

各種情報

恵那山登山ツアー

  • 恵那山|登山・トレッキングツアー

観光協会など

登山届提出

長野県長野県警察本部地域部山岳安全対策課 電話:026-233-0110
長野県のホームページ
岐阜県岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会事務局 電話:0578-89-3005

登山地図のスマホアプリ

  • 山と高原地図のスマホアプリ
    昭文社から販売されています。山と高原地図ホーダイ - 登山地図ナビアプリ 定額(500円/月 or 4800円/年)で61エリアの「山と高原地図」が使い放題。山と高原地図[地図単品購入版]地図1エリア 650円。

恵那山山頂周辺の気温

最高気温平均気温最低気温
1月-3.2-9.3-14.2
2月-1.8-8.4-14.0
3月2.6-4.5-10.7
4月9.11.5-5.4
5月13.36.30.1
6月16.210.35.5
7月19.813.99.7
8月21.515.010.5
9月17.311.26.8
10月11.54.7-0.5
11月5.6-1.5-7.0
12月-0.4-7.0-12.0

恵那山へ登るための装備と服装

軽アイゼン12本歯アイゼンピッケルサングラステント
1月××
2月××
3月×××
4月×××
5月××××
6月××××
7月××××
8月××××
9月××××
10月××××
11月××××
12月×
必須:◎ あった方が良い:○ あったら良い:△ 必要ない:× 

服装や装備品のチェックリスト

登山地図必須 恵那山は山頂周辺で登山道が交錯します。登山地図を忘れると道迷いの原因に!
レインウェア必須 山の天候は急変します。天気予報で晴が出ていても
レインウェアは必須です。また、標高2,191mを超える稜線が続くので防寒着としても使えます。セパレートタイプの通気性と防水性を兼ね備えたゴアテックスがベストです。
帽子あったら良い 恵那山はどのコースから登ってもほぼ樹林帯の中を歩きます。従って必ずしも帽子は必要としません。日焼けを気にされる方は持って行かれる事をお勧めします。
日焼け止めあったら良い 恵那山の登山ルートはほとんど樹林帯の中にあります。とは言え夏の暑い日には日焼けをしますから持って行かれることをお勧めします。
飲料水必須 恵那山山頂避難小屋から15分の所に水量豊富な水場があります。
登山行程に合わせて水の量を調整するとよいでしょう。天気の良い日は少し多めに持って行きましょう。
ヘッドランプ必須 アクシデントで夜間の行動を余儀なくされた場合には必須です。
行動食必須 コースタイムが短いので簡単な物を持って行くと良いでしょう。
パックカバー必須 ザックが濡れないようにするためのザックカバーは雨に日には絶対必要です。ザックカバーも雨衣と同様に防水性が衰えてきます。時折、防水スプレーをするなどのメンテナンスが必要です。
救急薬品必須 切り傷、擦り傷にカットバン、絆創膏を持っていくと良いでしょう。虫刺され薬品も。
ティッシュペーパー必須 止血用などの万が一の時のために必帯です。
防寒着必須 薄手のフリース,セーター、軽いダウンジャケット。
恵那山山頂では、7~8月でも最低気温が10度近くまで下がることがあります。
軽くて保温性の高いものを選びます。ゴアテックスのレインウェアを
その上に着ると更に保温性が高まります。
手袋あったら良い 革製の手袋がベストですが、軍手でもOKです。
耳栓あったら良い 恵那山の山小屋では大部屋が基本です。就寝時に いびきをかく人が必ずいます。耳栓の効果は絶大です。
カメラあったら良い 山旅の思い出にぜひどうぞ。ウエストポーチに収納出来る大きさであることが望ましいです。
ビニール袋あったら良い ごみ入れとして2~3個あると便利です。
保険証(コピー)あったら良い 事故や遭難時に必要です。
サブザックあったら良い 水、カッパなど必要最低限が入る軽いコンパクトなものを使用すること。

覚明行者が修行した恵那山

御嶽山黒沢口を中興開山した覚明行者が、恵那山を山岳道場として修行に励んだと言います。濃尾平野の人々にとって、伊吹山と共に恵那山は信仰の対象になった山と言えます。その中心地となったのが恵那神社(恵那権現社)です。

恵那神社(恵那権現社)

恵那神社の拝殿と本殿
恵那神社の拝殿と本殿

恵那神社は、御祭神として伊弉諾命・伊弉册命、配祀として 天照皇大神などを祀っていますが、明治の神仏分離令以前は、神仏習合の恵那権現社でした。江戸時代には恵那山修験の霊場として栄えた事は間違いありませんが、廃仏毀釈によってその史料のほとんどが散佚してしまったからです。

山頂の恵那権現社の成立は不詳ですが、「胞ろく雑誌略草」に西暦1576年(天正4年)に山頂にある恵那山七社が再建されたとあります。

恵那山七社とは恵那権現社、役行者、富士浅間社、熊野権現社、明神社、剣権現社、和光白鹿でした。現在は、山頂に恵那神社奥宮のほか葛城社(かつらぎしゃ)、 富士社、熊野社、神明社、剣社、一宮社として祀られています。

かつて毎年9月17日に祭礼が行われ、精進潔斎をして登拝したことが伝わっていますが、現在では9月29日に恵那神社本宮の例祭が行われ、恵那文楽が奉納されています。

恵那文楽は、岐阜県中津川市川上(かおれ)に伝わる人形浄瑠璃で、元禄時代に淡路の人形使いが伝えたとされ、岐阜県無形民俗文化財に指定されています。

恵那神社奥宮本社 (摂社六社と共に恵那山山頂)

  • 【二ノ宮社 剣神社 祭神は天目一箇命(あめのまひとつのみこと)の社】
  • 【三ノ宮社 神明神社 天照大神と豊受姫(とようけひめ)大神の社】
  • 【 四ノ宮社 熊野神社 速玉男命(はやたまのおのみこと)の社】
  • 【五ノ宮社 富士神社 木花咲開姫大神(このはなさくやひめ)の社】
  • 【六ノ宮社 葛城神社 一言主大神(ひとことぬしおおかみ)の社】
  • 【恵那神社奥宮 伊邪那伎大神、伊邪那美大神の夫婦神、配祀として 天照皇大神】恵那山山頂横に祀られています。賽銭箱と参拝帳があります。毎年9月29日の本宮の例祭では恵那文楽が奉納されています。

参考文献
名山の民俗史
東山道の峠の祭祀・神坂峠遺跡

島崎藤村の長編小説「夜明け前」に描かれた恵那山

恵那山を語るのに馬籠宿を生家とする島崎藤村の「夜明け前」を外すわけにはいきません。「夜明け前」は、昭和4年から10年まで「中央公論」に連載された長編小説です。主人公の青山半蔵は藤村の実父・正樹をモデルとしています。幕末から明治維新にかけての激動の時代を生き、志半ばで命を落とした父・正樹への鎮魂とも言える作品です。

島崎藤村の生家のあった馬籠宿からは南方面にどっしりと構えた恵那山がよく見えます。正樹はこよなく恵那山を愛し、青山半蔵を通して恵那山の魅力を独特の文体で、どこか哀愁ともとれる暖かさで描写しています。恵那山に対する正樹の感慨と受容は、9歳で上京するまでこの地で育った島崎藤村にとっても同様のものであったのです。

参考文献:南木曽の歴史 歴史資料館展示図録